「日銀、追加利上げへ。政策金利を0.75%程度に引き上げ」
ニュース速報が流れた瞬間、都内のタワマンや新築マンションを7,000万円以上の巨額のローンで購入した層に激震が走りました。
インフレ率は3%を超え、物価も上がる中での0.25%程度の利上げ検討。
「変動金利は終わりだ」
「支払いが爆増して破綻する」
そんな煽りが飛び交っていますが、私から言わせれば、「不確定な未来を恐れるのではなく、設計図(シミュレーション)を引いて対策する」のがプロの仕事です。
結論から言います。
今回の利上げ(+0.25%)だけで、家計は破綻しません。
しかし、「市場が予測している10年後の金利(2.45%)」を無視すると、詰む人が続出します。あくまでも「何も対策をしない場合は」です。
今回は、現在のリアルな金利水準(0.7%)をベースに、短期的な影響と、市場データに基づいた長期的なリスクを徹底シミュレーションします。
見出し1:【短期】7,000万円ローンの支払いはいくら増える?
まずは足元の火種を確認しましょう。
最近は変動金利も少し上がり始めており、ボリュームゾーンは0.7%前後になっています。
ここに、今回の政策金利上昇分(+0.3%)が乗っかると仮定します。
【試算条件】
- 借入残高: 7,000万円(フルローン想定)
- 残り期間: 35年
- 現在の金利: 0.7%
- 改定後の金利:1.0%(+0.3%上昇)
【計算結果】
| 項目 | 利上げ前 (0.70%) | 利上げ後 (1.0%) | 差額 (インパクト) |
| 毎月返済額 | 187,964円 | 197,600円 | +9,636円 |
| 年間負担増 | – | – | +115,632円 |
結果は、月額 約10,000円の上昇です。
年間約10万円の負担増。確かに痛いですが、7,000万円のローン審査に通る属性のあなたにとって、これが即座に「破綻」を意味するでしょうか?
飲み会を2回我慢する、通信費を見直す、あるいは働き方を少し調整する。
この10,000円はまだ「家計のカイゼンで吸収可能な範囲」です。
見出し2:慌てて「フラット35」に逃げると、即死する
「金利が上がるなら、急いで今のうちに固定金利に借り換えよう!」
その判断が一番危険です。なぜなら、固定金利はすでにはるか高みにあるからです。
最新のフラット35(買取型)の金利は、約2.08%(2025年12月現在)です。
(出典:住宅金融支援機構 フラット35金利情報)
もし今、安心を買うために固定金利(2.1%)に借り換えるとどうなるか?
- 変動 (1.0%): 197,600円
- 固定 (2.1%): 235,492円
- 差額: 月々 +37,892円 の支払い増
見てください。
「月10,000円のリスク」を回避するために、「月40,000円の確定コスト」を支払うのです。
年間で約47万円も支払額が増えます。これこそが「家計破綻」の真犯人になり得ます。
数字で見れば、今は変動金利のまま耐え、差額を蓄蓄に回すのが数学的な正解です。
見出し3:【長期】市場はすでに「2%の世界」を見ている
「じゃあ、ずっと変動で大丈夫だね」
…と安心するのは早計です。「市場の先行指標」を確認する必要があります。
短期的な金利は1.0%程度ですが、プロの投資家たちが売買する「10年国債利回り(長期金利)」は、すでに 1.947%(2025年12月現在) まで上昇しています。
(出典:SBI証券 日本国債10年)
これは何を意味するか?
市場は「将来、金利は2%くらいまで上がるのが妥当だ」と評価しているのです。
さらに、現在の日本のインフレ率は3%(2025年12月現在)近辺です。
金利はインフレ率を追いかける性質があるため、将来的には変動金利が3%に達する可能性もゼロではありません。
「まさかそんなに上がらないだろう」という正常性バイアスは捨ててください。市場はすでに警告を出しています。
見出し4:【負荷テスト】10年後、金利が「長期プライムレート」並みになったら?
では、最悪のケースを想定して負荷テスト(ストレステスト)を行います。
もし10年後、変動金利が現在の「長期プライムレート(2.45%)」と同水準まで上昇していたら、あなたの家計はどうなるでしょうか?
※長期プライムレートは、企業への貸出金利の指標で、現在は2.45%です。
(出典:日本銀行 長期プライムレート)
【恐怖のシミュレーション条件】
- 10年後の残債:当初7,000万円を1.0%で返済し続けた場合、10年後の残高は約5,200万円です。
- 新金利適用:この5,200万円に対し、残り25年で金利2.4%になったと仮定します。
【結果:運命の審判】
- 現在 (0.95%): 約19.6万円
- 10年後 (2.4%): 約23.2万円
- 差額: 月々 +36,000円 の激増
いかがでしょうか。
「固定金利への借り換え」で見送ったはずのコスト増が、10年後に襲いかかってきます。
10年後といえば、子供の教育費がピークを迎え、老後資金の積立も本格化させたい時期の人も多いのではないでしょうか。
そのタイミングで、住宅ローンだけで年間43万円の負担が増える。
この「未来の請求書」を、今のあなたは支払える状態にありますか?
見出し5:今すぐ「余力(バッファ)」を作れ
このシミュレーション結果を見て、「余裕で払える」と思った人は、そのまま変動金利でOKです。 しかし、「それはヤバい…教育費と重なったら詰む」と冷や汗が出た人。
あなたに必要なのは、固定への借り換えではなく、「資金計画(キャッシュフロー)の見直し」です。 金利が2.4%に上がるまでの数年間(猶予期間)で、何をするか?
- バッファを作る: 月10,000円の負担増に文句を言っている場合ではありません。今のうちに月5万円の節約をして、繰り上げ返済用の「種銭」を作るのです。
- 「実質無借金」の状態を作る(手元資金の最大化): 慌てて借金を返す必要はありません。金利が低い今は、手元資金を新NISAなどで運用(期待リターン4〜5%)し、「資産」を増やすスピードを上げてください。 目標は、10年後に金利が上がった際、「返そうと思えばいつでも一括返済できる」という状態を作っておくこと。これが最強のリスクヘッジです。
「今の家計状況で、どこまで節約が必要?」 「10年後の教育費とローンのバランス、本当に大丈夫?」
もし、自分で計算して戦略を立てる自信がないなら、手遅れになる前にプロの検算を受けてください。 7,000万円という巨大なプロジェクトを抱えているのですから、「FP(ファイナンシャルプランナー)」に相談して、インフレ率3%や金利上昇を織り込んだ「辛口のキャッシュフロー表」を作ってもらう。
これだけで、漠然とした「恐怖」は、具体的な「タスク」に変わります。
「焦って固定に変えるな。まずはシミュレーションし、無理ならプロを頼れ」 これが、金利上昇局面における唯一の生存戦略です。
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※「私は計算ツールの提供までですが、個別のライフプラン相談ならここが中立でおすすめです」
よくある質問(FAQ)
Q. 利上げで住宅ローン破綻する人は増えますか? A. 今回の0.25〜0.3%程度の上昇だけでは、破綻する人はほとんどいないでしょう。しかし、数年後に金利が2%を超え、かつ何の対策もしなかった家庭では、教育費と重なって返済が困難になるケース(実質的な破綻)が増加すると予測されます。
Q. 繰り上げ返済はいつするのが正解ですか? A. 数学的には「投資リターン > ローン金利」である限り、繰り上げ返済は推奨しません。
例えば、全世界株式などで年利5%の運用益が見込める場合、金利1.0%のローンを慌てて返すよりも、手元資金を運用に回す方が資産拡大のスピードは速いからです(複利効果)。 また、住宅ローン控除(残高の0.7%還付)の恩恵を受けている期間中は、繰り上げ返済をするとかえって「損」をするケースもあります。
ただし、「金利が4%を超えて運用リターンとの差がなくなった時」や、「借金があること自体の精神的ストレスに耐えられない時」は、繰り上げ返済をして心の平穏を買うのが正解です。 感情を排除して数字だけで見るなら、「完済する現金を投資信託で積み上げつつ、あえて借り続ける」が最適解です。
Q. 125%ルールがあるから安心ではないのですか? A. 125%ルールは「支払いを先送りする」だけで、利息負担は確実に増えています。安心するための制度ではなく、急激な変化に対応するための猶予期間と捉え、その間に家計を改善する必要があります。また、一部のネット銀行にはこのルールがない場合があるため確認が必要です。
編集後記
私のブログでは、市場データ(長期金利やプライムレート)を考慮した「ストレスチェック」ができる計算ツールを無料で公開しています。 自分の借入額を入れて、「今の10,000円」と「未来の34,000円」を、ご自身の目で確認してください。
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